天知探偵事務所ミステリ支局

アクセスカウンタ

zoom RSS チェーン・ポイズン/本多孝好

<<   作成日時 : 2008/11/22 17:49   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

本多孝好『チェーン・ポイズン』(講談社、1600円)です。


画像




【あらすじ】
 主人公は36歳の独身女性。
16年前、普通の女子大生だった彼女は普通に大学を卒業して、普通に就職し、普通に仕事をして、普通の36歳のOLになっていた。
しかし、気づいた時には、個性の無い、孤独で未熟な「私」がそこにいるだけだった。
〈三十を越えて、たいしたキャリアもないOLにいい転職先などあるはずもない〉、また、結婚に関しても〈私が男なら、私など選ばない。若くもなく、綺麗でもなく、何の取り柄も、個性すらない女をわざわざ選びはしない。〉と諦めてしまっていた。
彼女は定年までの20年以上、〈このまま一人で暮らす生活〉を想像した時に、未来に絶望してしまったのだ。

 それでも無意味な日常に何か意味を見つけるためにブログを始めた。
単調な毎日の装飾のない報告に、訪れる人はほとんど誰もいなかった。
しかし、ある日、「もう死にたい」という日記をアップしたところ、ブログが炎上する。
〈じゃシネ〉など、悪意に充ちたコメントが乱立したのだ。
ネット上においても、社会同様の無関心と疎外を感じた彼女は再度、世の中に絶望する。

 外に出てあてもなく彷徨い歩くうちに見知らぬ公園にたどりついた。
その公園のベンチに腰を下ろし、「もう死にたい」と呟いた瞬間、「本気ですか?」という言葉が聞こえる。
声の主は、「本当に死ぬ気なら、一年待ちませんか?」という。
今から生命保険に入り、一年間だけ頑張って生きてみて、その時にもう一度、この公園に来れば、頑張ったご褒美に苦痛もなく楽に死ねる手段をくれるというのだった……。


【感想】
 物語ではその後、二つの視点がカットバックの手法で語られてゆきます。
 一年後に自殺を決めた中年のOLの視点(回想)と、彼女たちの自殺の謎を追う週刊誌の記者の視点(現在)と。

 週刊誌の記者は、ミステリにおける〈名探偵〉の役割を担っています。
連続自殺事件の謎を追及してゆくのだけれども、読んでいる側はOLの事情を知っているので、なかなか真相に近づいてゆかないところがもどかしい感じ。

しかも、〈名探偵〉でありながら彼自身も事件から影響を受け、変容を遂げてゆくところが批評ではポイントになってくるのではないかと思います。

 一方、OLの方は、残りの一年の過ごし方に当初は苦労します。
勢いで会社を辞めたけれどもすることもなく、なりゆきで、児童福祉施設でボランティアをすることになったのです。

 「どうせ暇つぶしだから」という程度の気持ちで始めたボランティアは、子供たちに感情移入するわけではなく、少し冷めた姿勢で続けてゆきます。

しかし、やがてこの施設自体が資金難に直面していることを知るのです。
それでも割り切ってボランティアだけを続けていく彼女なんですが、少しずつ少しずつ施設の子供たちへの自分の気持ちに気づいてゆきます。。。


そこのところがまさにこの作品の読みどころ。
未来に絶望した主人公が無垢な子供たちと接することで、少しずつ「生」の意味を見出してゆくのです。

とくに226ページから244ページまでが感動。
泣きそうになってしまいます。


描かれているのは、自殺したOLにしろ、OLの友人にしろ、週刊誌の記者にしろ、中年の男女の抱えるそれぞれの孤独です。

中年も、おそらくみんな、若い頃にはなんらかの希望を持って、素朴に(その人なりに)誠実に生きてきたのでしょうが、気がついた時にはなぜか孤独や虚しさを心の奥に抱えていたりします。

「こんなはずではなかった」
ふとそう思う瞬間というのは、30代以上の大人なら誰でもあるのではないでしょうか。

そんな大人たちにはとっても共感しやすい物語ではあるのですが、一方で、いずれ訪れる中年期への想像力を養うために(?)、若い人たちにも是非、読んでほしい物語です。



この物語の主人公は、そんな人生の厳しさに負けそうになって、負けることを決めてから、大切なものに気づいてゆくわけです。



人は人によって生かされていて、人と人が触れ合うことで、私達は救われてゆく。

そんなことを再確認させられる物語でした。

孤独や空虚から抜け出すためには、結局は「行動する」ことなのかもしれない、とも思いました。


しかし、この物語が(いや人生が)残酷なのは、
やっと自らの「生」に意味を見出したOLが、その「生」に意味を持たせるには、「自殺」しかないというジレンマに落ち込んでゆくところです。

その部分が結末に対して読者のサスペンスを煽ってゆく部分で、それがやがてミステリ的な結末にうまく活かされてゆきます。


ミステリとしてはよくある手法を用いたもので、そんなに新味があるわけではないのですが、持って行き方が上手いというか、中年OLの物語、雑誌記者の物語自体に読ませる力があるので、その影に巧みに隠れることができたのだろうと思います。



それに、何より僕はこの物語が好きです。

ミステリとしてもそうですが、物語として好きな作品です。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
チェーン・ポイズン/本多孝好 天知探偵事務所ミステリ支局/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる