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zoom RSS リベルタスの寓話/島田荘司

<<   作成日時 : 2010/02/13 20:12   >>

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これも『本格ミステリ・ベスト10 2008』のレビューの書き直しですが、整理の都合上こちらにアップしておきます。

自分の書いた原稿ですし、『本格ミステリ・ベスト10 2008』自体も、もう書店には置いていないことが多いので、問題ないと思います。


島田荘司『リベルタスの寓話』講談社、2007年10月5日、2800円


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【あらすじ】(「リベルタスの寓話」)

 冒頭から島田荘司お得意の異形の死体が登場する。
2007年9月増刊号の『メフィスト』に掲載された「リベルタスの寓話」は、四体の男の死体が転がる凄惨な場面で幕を開ける。
四体のうち三体は頭部が切断されており、かつ男性器と睾丸も切除されていた。
四体目の死体は、喉から下腹まで縦一文字に切り裂かれ、腹部全体が左右に切り開かれていた。
そして、奇妙なことに内臓がすべて取り除かれ、かわりに肺の部分には飯盒の蓋と虫籠、肝臓の部分には大型のフラッシュライト、膵臓の部分には携帯電話、腎臓の部分にはパソコンのマウス、膀胱の位置には白色の大型電球、腸のかわりに丸められたホースが入れられていた。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国の一都市・モスタルで発生した、この奇怪な殺人事件をNATOの幹部から依頼されたミタライ・キヨシが、遠隔地スウェーデンからアームチェア・ディテクティブとして解決する。


【感想】

 異形の死体は物語の初めに紹介されるクロアチアの昔話「リベルタス」の伝承に見立てられるのですが、この伝承は作者の創作であることが「後書き」で明かされます。
なかなかよくできているとは思ったのですが。

島田荘司の提唱する二十一世紀本格としての側面は、コンピューターでのオンライン・ゲームにおける仮想通貨の問題などを素材として取り込むことで、ホワイダニットで進められる物語に色を添えています。

 しかし、何と言っても強く心に残るのは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおけるクロアチア人、セルビア人、モスリム人の〈民族〉の衝突とそこから発生した暴力の問題をも描こうとしたところでしょう。

『UFO大通り』のレビューでは〈社会分析的な主張も目立つ〉(並木士郎)や、『帝都衛星軌道』のレビューでは〈まるでプロレタリア文学者のように、社会的弱者の悲劇を描くことが自分の使命だと、島田は思っているのかもしれない〉(市川尚吾)といった指摘もありましたが、両氏とも〈犯罪小説や実録小説の世界へと完全移行することもなく、本格ミステリ界の巨人として彼は現在でも君臨し続けている〉(市川)や〈謎―解明という「本格ミステリー」を組み立てることが目的であり、社会分析はどこまでも手段である。そこが、謎の解明を手段として権力だか何だかを暴くことを目的とする「社会派ミステリー」と決定的に違う。〉(並木)と最終的には位置づけています。

それには、私もほぼ同感なのですが、ただ、この「リベルタスの寓話」を読む限りにおいては、謎の解明と告発とを手段と目的という階層的概念で捉えるよりは、作者の中ではその両方を共存させようとしたのではないか、とさえ思われてくるのです。

本格でありながら(戦後日本の社会派とは少し方法が違うが)告発もする、そういった本格ミステリを目指しているのかもしれません。



【あらすじ】(「クロアチア人の手」)

こちらの舞台は日本で、東京は深川の芭蕉記念館である。
この記念館に宿泊する二人のクロアチア人の老人のうち、一人が貴賓室の中でピラニアの泳ぐ水槽に上半身を突っ込み、瞼と唇と右手が無い状態で発見された。
死因は溺死で貴賓室は密室状態だった。
もう一人の老人の方は会館前の道路で交通事故に遭ったあと、爆死している。
この事件が石岡のところに持ち込まれ、遠隔地の御手洗潔が事件の謎を解決する。(『メフィスト』2007年5月増刊号)


【感想】
 こちらは典型的な〈密室もの〉ですが、日本―クロアチアの関係性が、事件の謎に巧みに利用されています。

本格としては、ここでも理化学的な思考が導入されているところが、二十一世紀本格ということを意識して書かれたということなのでしょうか。

密室トリックに関しては、なんとなくわかったようなわからないような。


 二作品に通底するのは、やはりボスニア・ヘルツェゴヴィナでの〈民族紛争〉、〈民族浄化〉の問題です。

とくに「リベルタスの寓話」の方は、謎が解明された後に冒頭に提示された異形の死体などとは比べ物にもならない、凄惨で残酷な恐ろしい現実が姿を現します。

謎そのものは本格ミステリを読みなれた人にはある程度、察しがつくと思うのですが、この現実の方に強く衝撃を受けることでしょう。

もちろん作者自身がどの程度、取材して、書かれた内容がどの程度、事実を切り取っているのかについてはこちら側も慎重に調査を重ねなければなりませんが、その可能性を告発するだけでもこの作品には意義があるように思います。

とくに世の女性には多く読んで知ってほしい作品のように思います。
そして男性にはこれを読んで、よく考えてほしいと思います。
自分たちの問題として。

本格ミステリでありながら、この現実といかに向き合うか、〈民族〉の問題をどのように考えるかという問題を提示してくれる優れた作品であることは間違いないでしょう。


 結末での、クルド人の老人の「語るのは、見ているのと同じくらいにつらいことだ」という言葉が深く胸に突き刺さります。 

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